パスポートのいらない、海外【飯田航太のぶらりサーフ旅 vol.4】

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はじめに

みなさんお久しぶりです、飯田航太です。
Knot Online Contest 最終章のMEXICO編、ご覧いただけましたでしょうか?
大橋海人プロのYouTubeチャンネル、 ” Oceanpeoples ” にアップされているので、まだ観ていない方は是非、もう観たよっていう方も何回でも観てください笑
KNOT 完結 元WCTサーファーと最高のトリップ in Mexico
メキシコの記事はまた改めて書こうと思いますのでお楽しみに。

さて、今回訪れた場所は太平洋に浮かぶとある島。
「パスポートのいらない、海外」なんとも印象的なキャッチコピーを持つ、新島でのサーフトリップの模様をお届けできたらなと思います。
僕自身は新島に行った経験は無く、島についての情報は皆無。

HRSsurfのチームメイトであるハードチャージャー村上蓮がここ最近、どうやら新島へ足繁く通っていることを知り、僕の新島に行きたいという気持ちを高めてくれました。

新島へのアクセス

引用:新島村 交通アクセス|新島村の紹介|東京都新島村

まず新島へのアクセスは大型船、高速船、そして飛行機の3つになります。

①大型船
大型船を利用する場合は東京竹芝港(所要時間約8時間半)、または伊豆は下田港(約3時間)から乗船することができます。
②高速船
高速船は竹芝港から出船しており、所要時間は2時間30分と大型船と比べると短時間で新島へ向かうことができます。
③飛行機
そして最後のご紹介は、飛行機で行く方法。調布飛行場と新島間を1日3〜4便の運行で搭乗時間は約40分と最短で本州と新島を結んでいます。

僕は今回この飛行機でいく方法を選びました。

すでに沖では低気圧からの強風でビルドアップスウェルが届いており、船が欠航する恐れがあったため、今回は飛行機で向かうことにしました。

定員19名の小型プロペラ機が新島〜調布間を結んでいます。

発端 3月20日(日)

この日、 村上蓮 から一枚のスクリーンショットが送られてきた。
それは、風、天気、潮汐、波予報などが予測可能なアプリであるWindyの画面だった。
そこには強烈な南風が太平洋沿岸を直撃している様子が。
今見返しても本当にとんでもない予報だったんだなと思います。
この予報と蓮の「可能性ある、新島」の一言で行く決意を固めました。

ボード選びと妄想 3月23日(水)

20日から随時予報を確認し、蓮とHRSsurf山田さんの3人で情報共有をして行く中で、このトリップは現実味をおびてきました。
スコアできるという確信を得た僕たちは、チケットを手配し、持っていくサーフボードを選び始めました。

初場所である新島羽伏浦ポイントですが、いきなり超スペシャルなコンディションになるかもしれないという期待の中でのボード選びは楽しくもあり、不安でもありました。
自分がサーフトリップに持っていくボードは基本的に3本です。
でかい波予報ならステップアップと呼ばれる6’0から6’6までの長さを2本、そこにパフォーマンスボードを加えるといった形で自分のクイバーを構成していきます。

事前に得た情報では、地形は浅くでかいスウェルがそのバンクにヒットするととてつもない掘れ方をするのではないかと。
掘れている時に長いボードを使うとテイクオフの時に刺さってしまう。
かといって短すぎても太いうねりではパドルが引っかからない。

なんとも難しい状況でしたが、いろいろなコンディションを想像して、それらを天秤にかけて、決めたクイバーは “ 6’4 x 6’0 x 5’9 ” 。このチョイスを信じてボードバッグのファスナーを閉めました。

持っていった3本のHammo surfboard。シェイパーのDane Hamiltonと出会ったのは8年前のこと。

空飛ぶバス? 3月26日(土)

午前8:30の始発便に乗り込み、調布空港を後にしました。

バスのようなサイズ感のプロペラ機。扉の隙間からコックピットが見える。移動距離3000kmの記事で宮崎アテンドをしてくれたHRSsurfライダーの芳田カコも急遽参戦。

飛び立って数十分で湘南の海岸線が眼下に広がっていました。
曇りだったので富士山までは見えませんでしたが、快晴時のフライトはさぞかし良い景色が見られるのでしょう。

思っていたほど風の影響はなくてそんなに揺れることなく、気付けば新島空港の滑走路に向かって着陸しようとしていました。
窓から外を覗くと、滑走路が丸見え。着陸寸前で斜めを向いていた機首を滑走路の角度に戻し、無事着陸しました。

機首を風上に向け、恐ろしい角度でアプローチしていく飛行機。手前に見えている砂浜がまさに羽伏浦海岸。

インドネシア・シメルー島の空港を思い起こさせる小さな空港。中に入ると新島ローカルの皆さんが歓迎してくれて、いよいよこのトリップは幕を開けました。

1日目は波の上がり始めで本命ではなかったので、島北東部に位置するビーチブレイク「淡井海岸」でウォームアップ。壮大な地形に囲まれながらのサーフィンは、まるで海外でサーフィンしているかのような錯覚に陥ります。

平坦な砂浜の先には反り立つ崖。地形の変化が激しい場所は美しい。

このスウェルを狙って湘南から澤田昇太吉野菜が来島。昇太は小さい頃から頻繁に新島を訪れているようで、新島の雰囲気、ローカル達の中に溶け込んでいました。菜の祖父母が新島に住んでいて彼のルーツはこの島にあるんです。

うねりの上がり始め周期の短いバタバタとした難しいコンディションの中、面ツルのチューブにプルインしていった昇太。Photo by HRSsurf HRS SURFSHOP Shonan#Japan (@hrssurf) • Instagram photos and videos
際どいセクションを攻める菜。淡井海岸はコンパクトながら波数、セクションが多く、練習にはもってこいのサーフポイントです。Photo by HRSsurf HRS SURFSHOP Shonan#Japan (@hrssurf) • Instagram photos and videos
メンズ顔負けのパワーサーフィンを繰り出すカコちゃん。Photo by HRSsurf HRS SURFSHOP Shonan#Japan (@hrssurf) • Instagram photos and videos

今回お世話になった場所はこちら。
GUEST HOUSE IKETA – 池太商店」さん。
とても綺麗なお宿で池田さんファミリーが温かく迎え入れてくださいました。

本命である次の日への期待を膨らませ、早い時間に眠りにつきました。

THE DAY 3月27日(日)

朝アラームの音で目が覚め、眠い目をこすりながらネットで波高と周期を確認。
急いでボードを詰め込み羽伏浦へと車を走らせました。
町を抜け、海に着くと白い建物の間から朝日と海面が見えました。でもこの時全然波が見えなくて少し不安になりました。

車から降り、まじまじと海を見ると、相当な分厚さのウネリが南の方角から届いているのが見えました。
つまり、最初に波が見えなかったのは道路が高い位置にあるからだったのです。
羽伏浦海岸は砂浜の浸食で崖になっているため、波打ち際を見るためにはギリギリのところまで行かないと見えないのです。

まだ海は騒がしく、昨日の風波が残っているような感じでした。
時間が経つとクリーンナップされて良くなりそうな気配があるけれど、その間にサイズが下がってしまうことも危惧して蓮と僕は海に入る準備を始めました。

楽しみと緊張が入り乱れる時間。Photo by 石山詩恩 SHION (@shionsmile) • Instagram photos and videos

蓮はいつもの感じで高速で着替えを済ませ、ボードを脇におさめて、まるで漫画のキャラクターのような足取りで砂浜を目がけて走って行った。

日曜日ということもあり、ローカル達も続々と羽伏浦に集まってきました。
波を見るなり、カメラを向け盛り上がりを見せていました。やはり相当スペシャルなときにきてしまったんだなと。
着替えながら海を見ているとメイカブルな波が見えてきたんです。
「よしっ、いける。」自分の中でスイッチが入ったのがわかりました。

準備のペースを上げ、ワックスの塗り残しはないか、リーシュの確認、フィンがちゃんと入っているか。一通りのセーフティチェックを終えた僕は砂浜へと向かいました。

駐車場と砂浜の高低差は十数メートル。

上と下では全く景色が違った。砂浜から見る景色では波のボトム・底が全く見えない。沖の地形が浅すぎて水の吸い上げが尋常ではなくて、その吸い上げられた水は地形を粉砕するかのように絶えず爆発していました。
でも駐車場から見た景色を信じて、荒れ狂った海に飛び込みました。

手前でゲッティングをしている蓮とアウトサイドの波の大きさを比べるといかに強烈だったか見てとれる。Screenshot from the film 森碧廉 森 碧廉 (@allenmori99) • Instagram photos and videos 

沖への流れは強烈で、数本ドルフィンをするとラインナップに吐き出されました。
振り返って岸を見るととてつもないスピードで横へ流されているのがわかったので、
ポジションキープのために、パドルバックしようとしてもなかなか位置が変わらない。

流れに逆らってパドルを続けるけど、待ちたいと思っていたところを目指してもキリがないんです。
そこで自分はとりあえず流れに身を任せ、事前に数カ所マークしていたバンクをだけ入念にパドルをして流れに対抗するといった形で落ち着きました。

この時蓮は「それいくん!?」っていう波にも果敢に手を出していて、2人きりのどんよりとした海でのバイブスを上げてくれました。

数本手を出すと一気に500m以上流され、砂浜を歩いて回るランアラウンドを行う。
歩きながら色々考え、どこで待つのか、どういう形で入ってきた波がベストなバンクに当たって綺麗なチューブを創るのか。
そんなことを考えていながら歩いているとあっという間にパドルアウトするポジションに戻っている。
そんなことを繰り返していると、始発便のプロペラ機が滑走路を目掛けて飛び込んできた。
刻一刻と過ぎていく時間の中、蓮と僕は自分らの世界に入り込んで、黙々とチャージを続けました。

Photo by 石山詩恩 SHION (@shionsmile) • Instagram photos and videos

そうしているうちにチラチラと雲の隙間から太陽の光が差し込んできて、山を覆っていた雲もちぎれ始めて、海の様子が変わっていきました。
その時沖に見えたうねり。
明らかにいい形で入ってきていて、全貌を現すなり俺は全力で岸に向かってパドルを始めていました。こういう求めている波が目の前に来たらほんの数回波を見るだけでこういうふうにブレイクするだろうっていうのが感じ取れます。
確実にいいところにいるのがわかった。スーッと水が引いていき、ボトムが鏡面のようななめらかさを持ち始め、ショルダーは肉厚を増していく。早めのテイクオフからフェイスをくだり、そのままチューブの中に突っ込んでいきました。

“If there was no such thing as barrels I probably wouldn’t even surf.” – Clay Marzo (もしチューブがなければ多分俺はサーフィンをしていない – クレイマルゾ)」

昔見たDVDで、ハワイの神童クレイマルゾがインタビューの中で発したフレーズ。チューブの景色を見たことなかった自分からすると、その言葉はどこか印象的で、10年以上経った今でも鮮明に頭の中に残っています。
無論その言葉の真意を探りたくて、低気圧や台風が来るたび四国の河口で抜けれないなりにチャージを繰り返していたんです。

本当にあの空間は異世界、たった1秒とか2秒とかなのに思いっきり脳みそに刻まれる。何年も前の人生初チューブライドで見た景色もしっかりと覚えています。

この新島でのチューブも特別なものになりました。

駐車場より高い位置にカメラをセットしていた碧廉。Screenshot from the film 森碧廉  森 碧廉 (@allenmori99) • Instagram photos and videos
先ほど着陸した始発便に乗っていたのは世界の松岡慧斗くん。
ラインナップに登場するなり1本目からクレイジーなレイトテイクオフからのプルインを魅せセッションのスタンダードを別次元に持ち上げた。Screen shot from the film 森碧廉 森 碧廉 (@allenmori99) • Instagram photos and videos 

気づけばお昼になっていて、スーパーセッションは幕を閉じました。
自分がメイクしたチューブは1本だけ、初めての新島羽伏浦のポテンシャルにど肝を抜かれました。
絶対にまたここへ戻ってきてリベンジしたいです。

高台からのアングルと違ってボトムが全く見えない、ビーチアングル。Screenshot from the film 石山詩恩 SHION (@shionsmile) • Instagram photos and videos

羽伏浦 “The Day” の映像

 by 森碧廉

by 石山詩恩

新島出身の若手クリエイター

新島には2人の才能あるクリエイターがいて、今回のセッションの一部始終を収めてくれました。

まず1人目は森碧廉。東京で大学を卒業した後、島に戻り地元で働く傍らフリータイムで美しい新島の風景を切り取っています。

碧廉と出会ったのは4年前。
その時彼は湘南にある会社のサポートのもと、佐藤魁と兄佐藤綾馬のトリップに同行し、映像と写真を撮っていました。
そしてオーストラリア・ゴールドコーストに訪れていたタイミングでアレンとキャッチアップすることができました。

僕たちは数日間色々なポイントでセッションを共にしました。最初に彼の映像を見たとき、外国人クリエイターが撮ったような空気を感じたんです。

背景や周りの環境を取り込み、被写体を際立たせるような構図、色の出し方やカメラワーク諸々全てが日本人離れしているなと衝撃を受けました。
碧廉はとても知的でユーモア溢れる青年、繰り返し映像を観ていく中で、彼のキャラクターがそのまま映像や写真に現れていることが感じられて、僕は彼が創る作品のファンになりました。日本帰国後なかなか会う機会がなくて、ずっとセッションしたいなと思っていました。そして今回、碧廉の地元の新島羽伏浦で映像を残してもらえたことが最高に嬉しかったです。

そんな碧廉に新島の魅力を聞いてみました。

新島は海の色が本当に独特で、毎日時間帯によって海の表情が全く異なるのが魅力のひとつです。案外都心からのアクセスもしやすいのでぷらっときてのんびりして欲しいです。

ライダーは松岡慧斗くん、水中撮影もこなす碧廉。
今後のビジョンはオーストラリアへワーホリに行き、言語・文化の異なる土地での生活をしてみたいとのこと。
これからも素晴らしい作品を発信してくれると思います。
森碧廉のYouTubeチャンネル

そして2人目はこのトリップで初めて出会った石山詩恩

この凄すぎるショットは新島で撮られたものだそうです!

詩恩はThe Dayの早朝、僕が入水する前からビーチに降りてアングルを工夫し、一日中海に張り付き、セッションの様子を収めてくれました。

彼もアレンと同じく新島で働きながら、休みの日になるとカメラを持ち出し、独自の視点で美しい新島の瞬間を撮影しています。
幼少期から新島の大自然に囲まれて過ごした彼はその素晴らしさをカタチとして残したいと考えていたそうです。

詩恩に新島の魅力を聞いてみました。

「やっぱり新島の魅力と言ったら大自然だと思います。

新島ならではの迫力があってパワーのある波でのサーフィンや、イルカと一緒に泳いだり、夜は一面に広がる星空を楽しむ事ができます。

でも今の新島は昔と比べて観光客の人たちが減ってしまっている。少しでも多くの人に新島の魅力や良さを知ってもらえたら嬉しいです。」

日本とは考えられないほどの満天の星空。
石山詩恩のYouTubeチャンネル
個人的に2人の作品から共通して見受けられたのは、自然の景色や動きを最大限に美しく映し出すことがとても上手だということ。
その日新島で目にした海の色、山の緑、深く味のある白い砂浜、雲の動きやウネリのエナジーを巧みに映像に落とし込んでいる。
その中で動く我々のサーフィンがスパイスとなり、高次元な没入感を与えてくれる。ぜひ彼らの作品を観て、それを体感して欲しいです。

おまけ:24時間解放の無料巨大露天風呂?

最後におまけとして、新島のびっくり仰天な施設を紹介したいと思います。

新島には至る所に遺跡のような建造物や、インカ帝国にインスパイアされたようなモニュメントがあちこちに存在していて、その配置や造形は違和感が全然ないんです。
その理由は、島の雰囲気に完全に溶け込んでいるからです。

「無料の露天風呂がある」そう蓮から聞いていて、無料のお風呂なんてせいぜい3〜4人しか入れないサイズ感のものを想像していました。
駐車場に到着するなり、ここはインディージョーンズの撮影セット?っていうくらい作り込まれた壊れかけの遺跡が。
その麓に3つの大きな露天風呂が見えました。

混浴なので海パンを履いて入湯。
3つの風呂は湯の熱さが違って、一番熱いところは肌が痺れるくらいの熱湯でした。
このスケールで24時間解放で無料というのは考え難い。また、島の西側に面しているので海に沈んでいく夕日を眺めながら浸かることができるんです。これだけでもこの島に来る価値があるくらい最高な施設ですよ。

今回もここまで読んでいただきありがとうございました。

初めて訪れた新島、温かい島民の皆様のおかげで最高な時間を過ごすことができました。
東京から40分飛行機に乗るだけでこんなにもクオリティーの高い波と出会えるなんて想像もつきませんでした。
サーフィンを抜いても新島の自然は素晴らしく、都会の喧騒を忘れ、ゆっくりとした時間を過ごせることでしょう。
みなさまも是非パスポートのいらない旅を体験してみてください!

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